ファミリーホーム事業者が目指すのは、里子の自立です。様々な辛い家庭事情から救い出されてきた彼らには、傷ついた心を癒すための里親の忍耐深い愛情、安心・安全な日常生活、自己を承認して受け入れるための十分な時間が必要です。それを提供することは、ファミリーホームにとって重要な最初の役目です。しかし、ここでファミリーホーム事業者の養育が終わるわけではありません。それは、たとえ心の傷が癒されても、それで彼らの人生が終わるわけではないからです。その段階を経てやっと、彼ら自身の人生は始まるのです。心癒された里子は、ようやく人生のスタートラインに立てただけであって、これから自らの人生を構築して行かなければならないからです。養育者にとってより大変なのは、里子が社会の中で自立して生きて行けれるように導いてくことの方です。養育者は、里子の社会自立をいかになし得るかに正念場を迎えるのです。
12年間、ファミリーホーム事業者であった私は(現在は引退)、ホームから巣立った青年(里親時代に委託を受けた児童)と先日夕食を共にしました。半年ぶりにあった彼女は、非常に元気で生き生きとして自立生活を営んでいました。知的障がい者ではありましたが、立派に一般企業の障がい者枠で入社して働き、支援を受けながらグループホームに住み、毎日6時半に起きては休まずに出社しているそうです。ホームから自立して早14年、色んな辛いことも数え切れないほどあったでしょうが、我慢強く社会人をつつけている姿に心を打たれました。養育者である私も彼女と共に悩みながら生きて来ましたが、一応、ファミリーホームの養育者としての役割は果たせたのではないかと思えたひと時でした。